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多和田葉子『エクソフォニー 母語の外へ出る旅』 [本]

 著者は、ドイツ語に深く携わり、ドイツ・ハンブルグ在住で創作活動している方のようです。2003年よりずいぶん版を重ねてきたエッセイ本です。
この、《エクソフォニー》は、「移民文学」や「クレオール文学」よりももっと広い意味で、母語の外に出た状態一般をさす言葉だといいます。

エクソフォニー-母語の外へ出る旅-

エクソフォニー-母語の外へ出る旅-

  • 作者: 多和田 葉子
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2003/08/21
  • メディア: 単行本

「エクソフォニーという言葉は新鮮で、シンフォニーの一種のように思えるので気に入った。この世界にはいろいろな音楽が鳴っているが、自分を包んでいる母語の響きから、ちょと外に出てみると、どんな音楽が聞こえるはじめるのか。それは冒険でもある。・・・母語でない言葉で書くことになったきっかけがたとえ植民地支配や亡命などにあったとしても、結果として生まれてくるものが面白い文学であれば、自発的に「外へ」出て行った文学と区別する必要はないのではないか。・・・住んでいた国を去らなければならなかったことは悲劇であるが、そのために新しい言葉と出逢ったことは悲劇ではない・・・」(ダカール、より)

「アメリカの若い人たちは、ヨーロッパの若い人たちとはちょっと違った。さすが移民の国だけあって、自分が移ってきた場所が自分の場所であり、そこの言語が自分の言語だと思っている。」(ロサンジェルス、より)

「わたしは境界を越えたいのではなくて、境界の住人になりたいのだ。」
「わたしの最も敬愛するドイツ語詩人パウル・ツェラン・・・。当時ルーマニア領のチェルノヴィッツでドイツ語を話すユダヤ人の両親から生まれた。」(パリ、より)

「夢を見るときは何語で見るのか、と聞く人がいる・・・この「本質的には」とか「魂は」とか「本当の自分は」という考え方が嫌いなのである。夢について尋ねる人たちは、本当の自分はどっちか決めてしまわなければ気がすまないようだ。・・・しかし実際は、本当の自分にこそ舌がたくさんある・・・」(ケープタウン、より)

「エクソフォニーは移民の権利ではあるが、義務ではない。特に政治的な理由で亡命しなければならなくなった人間に母語を捨てて、別の言葉ににしろと強制するのはおかしい。」
「「ヒューマニストたち」では、いわゆる出稼ぎ労働者のドイツ語を思わせる構文をわざと並べていって、その表現力の可能性と、それを「わるいドイツ語」として抑圧しようとするぎょっとするような言語のファシズムを浮き彫りにしてみせる。」(ウィーン、より)

「母語の外に出ることは、異質の音楽に身を任せることかもしれない。エクソフォニーとは、新しいシンフォニーに身を任せることだ。」(ハンブルグ、より)

「・・・ヨーロッパという一つの共同体を作ろうという強い動きと平行して、逆に小さな言語を救おうとする動きがますます目立ってきた。たとえばスイスではレト・ローマン語が、アイルランドではゲール語が、地方によっては学校でも教えられるようになり、毎日ラジオから流れるようになった。」(ワイマール、より)

「・・・(オスカー・)パスチオの詩に「ハイマート(故郷)」をテーマとして扱った作品が一つある。もちろん、故郷といっても、移民の身を嘆き故郷を懐かしむ、などという詩を彼が書くわけがない。・・・故郷なんていうイデオロギーをずっこけさせてやろう、と思って書いたに違いない。」
辞書はときに言葉をイデオロギーから解放する役割を果たす。辞書は秩序正しく言葉を整理したもののように見えるが、実はアナーキーな機関なのだ。」(ソフィア、より)

「意味と言う旅行保険をかけないで、外国語への旅に出た結果、いろいろな作品が生まれた。母語の外に出ることで、いつも自分を縛っていた禁止条例から少しは解放されたかもしれない。」(チュービンゲン、より)

 私には、多和田氏が気に入ったという《エクソフォニー》が、“同化”と“異化”の混合物(アマルガム)のように感じます。それは、ポリフォニー(多声)のような美しい世界をかなでるものか、モノフォニー(単声)と対峙しなくてはならないものかは、何か別の問題が触媒のトリガーになるのではと思います。《エクソフォニー》だけを取り出して、(身に)まとうことには、ためらいを感じてしまいます。同時に、そんな風に語れる多和田氏がうらやましいとも思います。


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