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キティ・ファーガソン『ピュタゴラスの音楽』 [本]

 私は、例の図形で三角形の面積を求める公式(底辺×高さ/2)を使って、「ピュタゴラスの定理」を証明することができた子供の頃の思い出があり、ピュタゴラスには思い入れを持ってます。本書では、そんな複雑な数学的証明に頼らなくても、ピュタゴラスが育ったサモス島のゲオモイ(土地区画法)で、もっと単純で直感的に証明できる図形が紹介されていて、いまさらながら感心しました。
 この「ピュタゴラスの定理」として世に知られているものが、実は紀元前6世紀のピュタゴラスをさかのぼること1400年。「メソポタミアには、紀元前二千年初期にこの定理が知られ理解されていたという、動かぬ証拠がある。・・・1945年には、考古学者が「プリンプトン322」と名づけた(メソポタミアの学校用の)粘土板が見つかった。」といいます。

ピュタゴラスの音楽

ピュタゴラスの音楽

  • 作者: キティ ファーガソン
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2011/09/09
  • メディア: 単行本

 この本で扱われるピュタゴラスの思想は、そうした「万物は数」という単純化されたものではなく、「輪廻転生」という宗教的な側面や、タイトルに使われている「音楽」という調和的なハーモニーにより重きをおいた、伝記と思想の継承史です。
 信頼のおける伝記として、ディオゲネス・ラエルティオス、ポルピュリオス、イアンブリコスの三人を取り上げています。 伝記を書いたポルピュリオスが、ピュタゴラスの下の共同体に訪れる人材を、判断するさまざまな基準を『世の果ての彼方の驚異』という書物に記された規準を使ったことを紹介しています。他に、統治者や女性への助言も紹介されてます。

 「調和」「無限なるもの」「有限なるもの」という概念が、数比という方法論として伝承されることで、単純化が起こった指摘がされています。

 ・・・ピュタゴラス派の考え方のなかでもとくに広く知られ、長い間、大きな影響力をふるい続けたのは、「天球の音楽」という概念だった。アルキュタスとピュタゴラス派の先人たちは、惑星が天界を勢いよく進みながら音楽を奏でていると考えた。

 プラトンの『国家』の最後にかかげられた「エルの物語」、それを手本にキケロが『国家について』で「スキピオの夢」を書いたこと。これにもとづき1771年にモーツァルトが「シピオーネの夢」(K.126)を作曲したことが知られています。

 リチャード・E・ルーベンスタインが『中世の覚醒』で、聖アウグスティヌスが悪の問題を取り上げていました。キティ・フアーガソンは、本書で新ピュタゴラス主義のヌメニオスによる、それとは別な悪の起源の問題についての解釈を取り上げています。

 また、ファーガソンは、「初めに言があった」で書き出される、新約聖書「ヨハネによる福音書」を原文のギリシャ語で該当するのは「ロゴス」だろううとして、意訳すれば、言葉ではなく「道理」あるいは「合理性」とおき、プラトンやピュタゴラス派の視点で読みかえる例を示しています。

 また、『哲学の慰め』で有名なボエティウスの『音楽教程』を紹介しています。このボエティウスの音楽の考え方が、本書を読んでいるとリアリティをもつのです。

 ボエティウスは「音楽」を三つの主題に分けている。天球のハーモニーである「宇宙の音楽」、音楽と人間の魂との関係である「人間の音楽」、それから私たちが普通、音楽と見なしていてる「楽器の音楽」だ。

 画家のボッティチェリが描いた《》は、天球の音楽を目に見えるものに具象化し、神話の神々を惑星の軌道と一オクターブの各音に結びつけた作品とされた。
 ペトラルカ、クザーヌス、コペルニクス、焦眉はヨハネス・ケプラーをピュタゴラスの調和にそって詳細に論じています。フランス革命、フリーメーソン・・・と現在に至るまで、ピュタゴラス派の考え方の継承史を綴っています。
 また、詩人のシェリーの作品、オルコットの『第三若草物語』、バルザック、ディケインズの『幽霊屋敷』などの文学作品にもピュタゴラスの影を認めています。

 そして、バートランド・ラッセルによる評価、アーサー・ケストラーの「ピュタゴラスに寄せる頌歌(オード)」と呼べるような散文の存在も取り上げてます。ついには、ブラック・ホールの発見、ホーキングの数学的思考と物理理論に登場する余剰次元、ロシアの数学者アレクサンドル・フリードマンの予測が、15世紀のクザーヌスが考えたのと同じく宇宙の均質を示しているとのことです。

 1962年天文学者たちが、太陽内部を通過する音波が、目に見える太陽表面、すなわち光球を泡立たせることを発見した。彼らはそれを「太陽の交響曲」と表現した・・・。うみへび座のξ(クシー)という巨大恒星は、数時間の周期で振動する「超・超低音楽器」だ。

 ブラックホールが星を吸い込むと渦の垂直方向に光速に近いビームを噴出すると最近もニュースになっていました。ペルセウス座銀河団の中心のブラックホールは、中央ハ音(ピアノ鍵盤中央のドの音)より57オクターブ低い変ロ音という、これまで宇宙で発見されたうちで最も低い音を奏でているそうです。
 ピュタゴラスの(天球の)音楽というタイトルがつけられている理由は、占星術や数秘術に止まらない最先端の宇宙論につらなるということでしょう。


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